私は父より画廊(創業昭和2年)の仕事を受け継ぎ、この道ひと筋に早や50年になります。
「何処かに佳い絵、つまり名画がないか」と毎日探し求めているのが私の日課なのです。名画を目の前にした時、それが売物であれば私は一瞬「ドキッ」とし、この作品は如何してでも手に入れたいと決心します。
内心はどんなに売手が高い値を言われても、「何とか・・・」と思います。まぁ名画にも色々あり、増して有名なものならいくら高くても、又無理をしてでも購入したいですね。
本当の名画はいくらお金を積んでも手に入らないのですから・・・。
名画とまでもいかなくても魅力ある佳い作品の場合は、まぁ倍額(相場の)ぐらいまではと定め覚悟します。入手が決まった時は、こんなうれしい事はありません。この様な作品は皮肉にもすぐに購入者が決まるものです。手離す時は寂しいものですが、宿命だと諦めると同時に画商の喜びを感じるのです。結局は売れて寂しくなる様な作品を沢山扱う事がいい仕事に通じるのだと自分に言い聞かせています。
又画廊の仕事で大切な事は「何処かに良い作家が・・・」と絶えず探しております。その作家と共に歩んで行くのも私達の忘れてはならない大事な事なのです。これが画廊の使命とでもいえるのでしょう。一言で言えば無名の作家を有名な芸術家に・・・を目的に共に進んで行くのです。これは時間をすごく必要としますが避けては駄目なのです。頑張るしかありません。
更に最近特に感じるのは、お客様が絵を購入される時は「人生の至福のとき」であると思う事です。「絵なんかなくても生活には何の支障もない」画廊を経営する私がこういうのも変なのですが、私は社員によくこう言います。言い換えると、「絵画という究極の贅沢品は無くても生きて行けるが、あれば尚一層人生を素晴らしくする」という意味です。
お客様の一人である事業家の方からは毎日といってよいほどお電話を頂き、そして超人的な多忙な合間をぬって私の画廊に足を運んで下さいます。本当に絵を見たい方、欲しい方は、忙しい中でも絵画の意欲を燃やし、沢山の絵画を見て、実際に自分のものにされて行きます。絵を購入される方は、きっとのんびりとして、静かな方が多いのではと想像される方も多いかもしれませんが、実際は仕事熱心で多忙な方ほど、絵画の収集欲も盛んな傾向があります。まさに精一杯エネルギッシュに謳歌しているという印象の方が多いのです。その様な方とお話していますと、まさに絵画を購入される瞬間というのは、お客様にとっては「至福のとき」なんだなぁと最近ことに思う様になりました。
絵画など美術品を手に入れたいと思うお客様には、芸術に興味があり文化的センス又作品を飾る雰囲気の空間があり、家族の理解があり、勿論仕事も順調であり、又健康であり心の余裕も大切な事です。より日常を豊かにするために美術品を探しに画廊に来られるのです。恐らくすべて上述の要素のうち一つでも欠けたら、高価な美術品を実際に買われる気持ちにならないのだろうと思います。
私は人と美術品の出会いの場である画廊でお客様の「至福のとき」に立ち会える画商という仕事を幸いに思っております。これからもますます良い絵とよい作家を探して行きます。
最後に五木寛之氏の言葉の一文を紹介して終ります。「芸術ほど人の心を高め、癒すものはない。齢を重ねたら、時間の許す限り数多くの展覧会に行かれて作家が伝えてくる高い精神性と美意識を受け止めて下さい。さすれば我が身に老いの近づきが遠のきます」 皆様もぜひ展覧会場へ・・・