ある画商

若き日、画家志望の私は絵の勉強をしながら繊維の小さな会社を経営していましたが敢無く倒産。突如として大阪の老舗画廊、F画廊に就職したのが始まりです。
毎日の仕事は訪問販売が仕事です。勝手わからぬまま作品を風呂敷に包み重い荷物を腰にかかえるように当てもない街へ‥‥‥。そして飛込みで会社社長を目当てに訪問販売をするのが日課でした。来る日も来る日も御堂筋の南端より、ビルからビルへと会社訪問し、淀屋橋辺りにたどり着いた頃は白暮の退社どきになっていました。毎日約10社程巡回するように歩くのですが売れない辛さは疲労と共に一層身に沁みる思いでした。
その後、時が経ち所得倍増論や列島改造論が飛び交うインフレ傾向の新時代を迎えるようになり業界も新しい息吹きを感じるようになって参りました。
敗戦後の不況時代を漸く抜け出し焼跡に復興の新築ビルのリベット打ちの音と共に街中に活気が漲って参りました。従来の愛好家の需要以外にビルの新築祝等の贈答用始め自社ビルの装飾用や新邸宅用の需要等が急速に伸び、絵画がビジネスとして大幅に拡大されてきたのも業界にとって大きな収穫となりました。漸く画廊も息吹きかえし、資金が蓄積されるようになり序々に充実して参りましたのも事実です。総合的には、勿論株価の上昇が大きな原動力になっていることには違いありません。その後オリンピックや万博等と共にバブルと称する景気の頂点を迎えた頃には株価はダウ三万円台に上昇したこともウソの様な景気でした。(因に現在は九千円台)而しながら経済の不況の波は業界に最も敏感で、売れない時代が長引けば生活必需品でないだけに計り知れない影響力があります。
そこで画廊は販売にどう取り組むべきか考えましょう。昔は少なかった取引きでしたが、今日百貨店とタイアップして百貨店の集客力と販売力に依存したことは、百貨店共、共存共栄の方法としては賢策と言えます。然し、好況時は作品を供給すれば楽な市場であったのですが、不況になれば百貨店も同様売上の減少に配慮すべきであり、納入画廊も百貨店側も企画と販売方法を再考すべき時が来ていると思います。その例として去る六月三日掲載の日経新聞の朝刊によれば百貨店(於東京大丸)での絵画展について企画販売の方法によっては好成績を上げられたと云う明るい記事が写真入りで報道されていた通り決して暗いニュースばかりではないのです。
要は何であるかといえば、個々の策を積極的に努力するしか方法はないのです。販売の原点に戻り、画廊にお客様の来店がない時こそ、手をこまねいて消極的にならず積極的に自らの行動を起す手段を考えない限り勝目はないのです。
次に画商は売れる作家を追いかけるのは当然ですが、大事なことは何時の時代でも、画廊推薦の育成画家を扱うことでしょう。他の物販業者と違うのは、お客様に夢を売る仕事だけに、夢づくりにも力を入れてほしいのです。今の不況時リスクの多い仕事だけに慎重にならざるを得ないことは百も承知ですが、勇気ある決断をして業界に新風を紹介して欲しいものです。未来のスター作りにお客様と画家と画商の三者に夢の福音を実らせたいと思うのは、私だけではないと思います。

関西美術商連盟相談役
アートプランニング北山
北山 達哉